リモートワークをマスターせよ – Atlassian(Trello)の場合 –
Victor Hugo 曰く
There is one thing stronger than all the armies in the world, and that is an idea whose time has come. (タイミングどんぴしゃのアイデアは、世界中の軍隊より強い)
まさに今こそ、Remote Work をマスターする時! ということで、今回はAtlassian のHead of DesignであるChris Kimbell によるプレゼンテーション”Beyond being there: High performing distributed teams” の概要をご紹介します。
先日、4/1, 4/2 の二日間にかけて、Jira やBitbucket, Trello など、ソフトウェア開発ツールの提供会社として有名な、Atrassianのカンファレンス Atrassian Summit が行われました。上記プレゼンテーションは、このカンファレンスのブレイクアウトセッションで行われたものです。
1. Master Remote
分散環境でのコラボレーションを使いこなすことは、チームが競争優位性を保つための鍵になりつつある。
GitHub(ソースコードマネージメントツール), Trello (カンバンスタイルのイシューマネージメントツール), inVision(UI/UX プロトタイピングツール), Automattic (WordPress の提供会社) などの会社がリモートワークを全社的に導入することで成功を収めている。
次のシリコンバレーはインターネット上にあるのではないか?事実、
- 2/3の労働者が週に一日はリモートしてる(IWG Survey)
- 53.3%が、転職を検討しているときの最優先ポイントとして「リモートのオプションが有ること」をあげている (2017 Stacck overflow developer survey)
- 80% の応募者がRemote、応募者の数は以前の5倍。また、リテンションの効果もある (Trello の場合)
とはいえ、同じ場所で仕事をすることは大事という声は強い。しかし、以下のことを考えて欲しい
- すでに多くのことがスクリーン上で起きている
- F2F Meeting は大事だが、電話会議でも代用できる
- 同じオフィスにいたとしても、フロアや建物が違ったらほとんど顔を合わすことはない
また、Google のチームコラボレーションに関しての研究「Project Aristotle」によれば、チームの生産性に、以下のことはあまり関係ないことがわかった。
- Individual IQ (個人の能力)
- Aggregate IQ (チームの能力)
- Proximity (メンバーの物理的距離)
- Experience (経験)
- Leadership (リーダーシップ)
そうではなくて、もっとも重要なファクターはEmpathy(共感) であった。
(※訳者注: Google の Project Aristotle のページをざっと読んでみましたが、ちょっと違うword を使っていました。一応参考まで。)
つまり、近くても遠くても関係なく、ちゃんとコミュニケーションできていたり、お互いをケアしていなくては勝利できない。
「そこにいること」はどれくらい重要だろうか。何らかの理由でどうしても通勤できないタレントもいる。すごいデザイナーは都市部にだけいるわけではない。多様な人材を獲得することで、多様な見方を手に入れることもできる。
また、デザインチームがやるような仕事はリモートでは無理じゃないか?という話もある。確かに、デザインの業務の中には、付箋紙を使ったりみんなでスケッチをするようなデザイン・シンキングなど、Face to Face じゃないと不可能にみえることも多い。しかし、この問いについても、「ちゃんとできる」と言いたい。実際にChirs は5年前から、Los Angels の自宅からフルリモートでデザインチームを率いている。
“The cave you fear to enter holds the treasure you seek.” (入るのが恐ろしいと感じる洞窟にこそ宝が眠る) – Joseph Campbell
恐れず洞窟に入ってみよう。
2. Invest in work’s social side
リモートカルチャーとオフィスカルチャーをどうやって結びつけるか?リモートワークでは、
同僚とウォーターサーバーの前でカジュアルな会話はできない。一般的に、リモートワークを採用すると生産性は上がるが、ソーシャル性は下がる。コラボレーションにおいて、信頼関係の構築は重要だが、リモートではFace to Face に比べると時間がかかってしまうことに注意したい。つまり、会社はソーシャルなアクティビティに積極的に投資していく必要がある。生産性の向上ではなく、共感の増加に注力すべきだ。
例えば、65% がリモートワーカーであるTrello の場合、以下のような工夫をしている。
頻繁なin person(対面) ミーティング
- 新メンバーがチームにJoin した場合、最初の1週間は全メンバーがオフィスに集まる
- Trello Together: 社員全員が年に一度同じ場所にあつまるイベント
- 年に一度のオフサイト(オフィス以外の場所に集まる)チームイベント
- チャリティーアクティビティなどのオフラインイベント
親睦を深めるためのカジュアルミーティング(ちゃんとオフィシャルにスケジュールすること)
- Studio: 週に一度、様々なアクティビティ(仕事以外) について自由に話す
- Mr. Roger: ランダムにメンバーをペアリングし、お互いを知る
- タウンホールミーティング: 月イチで、お祝いごと、誕生日、新人紹介など。チームワイドで行う。
ツールの活用
- ビタミンD appreciation day (4半期ごとに社員全員に$100 支給。それを資金に家族や友達となにか素敵なことをして、その写真をTrello にアップ)
- コンフルエンスを使って、非同期meeting: タイムゾーンが違うメンバーと、コメント機能をフル活用してやり取り
- Slack: 雑談チャネルをたくさん作ることを奨励
- Miro: デジタルホワイトボードで、コラボレーションの可視化。Zoom ビデオと併用していわゆるデザインスプリントにも使用。-> だれでも後からフォローできるのが強み
3. Remote is a spectrum
リモートワークには、様々なライフスタイル、様々なニーズがあり、働く場所も多様である。リモートのタイプとしても、部分的にリモートが認められている場合や、一部のチームのみがリモートである場合など、様々なケースがあるだろう。
場所とタイムゾーンで分けると、下図のようにコラボレーションのタイプは4つにわかれるが、タイムゾーンは非常に重要で、非同期コミュニケーションだけでは効率がかなり悪くなる。人はタイムゾーンを超えられない。Trello では、リモートメンバーを採用する際、通常の勤務時間が、既存のチームメンバーと少なくとも4時間以上オーバーラップしていることを要求している。 [f:id:Aki_A:20200405180139p:plain]リモートワークのタイプ( Beyond being there: High performing distributed teams より引用)
もう一つ重要なこととして、ミーティング等の参加機会を均一化することがあげられる。例えばTrello のルールとして、打ち合わせに一人でもリモートがいたら、全員オンライン会議でやるというものがある。一人だけリモートから参加になると、たいてい無視される。全員のアテンションレベル、参加機会を同じにす必要がある。Trello では、電話会議はZoom を使っているが、Brady Bunch モードを活用して、ミーティング参加者全員が同じプレゼンスを保てるように工夫している。 [f:id:Aki_A:20200405180035j:plain]一人でもリモートの場合は、全員がリモートで (Beyond being there: High performing distributed teams より引用)
There is a difference between knowing the path and walking the path.(ただ道を知っているのと、その道を歩いているのとは違う) – Morpheus
やり方を知るだけでは意味がなく、まずはやってみることだ。
以上です。
このブログも、気づけばすっかりリモートワーク関連記事ばかりになってしまいました。私自身は以前からこのテーマに興味がありますが、やはり今、このような情報に関するニーズの高まりを感じます。この記事を読んでくださった方に、なにか参考になるものが残れば幸いです。
個人的には、セッションの最後にChris が話したコメントが印象的でした。彼によれば、
「我々は今、何十年にもわたるオフィス文化からのシフトを初めたばかりであり、リモートワークにはまだまだ課題もたくさんある」とのこと。「現在のコラボレーションツールは、まだ”Seeing and Hearing each other” しかできない最初の段階であり、今後出てくるイノベーションは、より人間をタイトに結びつけるものであろう」と結んでいます。これは私もまさにそう考えていることです。「ただ見る・知る」を超えて、人と人との間の化学反応の触媒となるようなツールをつくっていきたいと思っています。
話は脱線しますが、このChris のプレゼンはいわゆる名言の引用が多くて面白かったです。ちなみに、最後の引用文のMorpheusは、あのMorpheusですよ。