コロナ禍でのH1-Bの応募者数に思うこと
米国ビザには、大きく分けて移民ビザと非移民ビザの2種類があります。移民ビザは、一般にグリーンカードと呼ばれるもので、米国を居住地としている限り永久に滞在可能なビザです。一方、非移民ビザは外国人の一時的な米国滞在を認めるものです。申請者の渡米目的や期間、経歴、知識、技術によって多数の種類があり、ビザの種類によって延長回数や滞在期間は異なります。
このうち、H1-Bビザは、専門職の方が米国企業で働くための非移民ビザです。例えば、建築、工学、科学、医学のように専門分野の知識やスキルを必要とする職が対象となります。多くの場合、申請する専門職の内容と同一分野の学士号以上を要求されます。ビザの有効期間は3年で、更新は一回ののみ。つまり、最長でも6年間のビザになります。配偶者は「H-4ビザ」となり、労働はできません。
H1-B は、年間の発行数に上限(キャップ)があります。毎年、合計85,000人のH-1Bが新たに発行されますが、そのうち20,000人は米国の大学を卒業した修士学位保持者、6,900人はシンガポールとチリとの自由貿易協定に基づき、これらの国の国民に割り当てられています。海外からのソフトウェアエンジニアの応募増加により、10年以上前から、新規のH1-B の需要は慢性的にこの上限数を遥かに上回っており、応募者多数のため、受付開始の4月1日から一週間以内にその年の応募が締め切られ、抽選になるのが毎年恒例となっています。
さて、H1-Bの応募者数は外的要因に左右されます。実際リーマンショック後の2009年から数年間は抽選は行われず、4月以降に応募をしても応募が受理されていました(とはいえ、年間上限を下回ることはなかったようです)。今回、このコロナ禍でも、おそらく応募者数は大きく減ったのではないか、と思い昨年の値を調べてみたのですが、結論から言うと、なんとFY2022(2021年4月応募) の応募者数はここ10年で最高になっていました。
H1-B の多くはソフトウェアエンジニアです。つまり大雑把に言えば、「外国籍を持つソフトウェアエンジニアに、わざわざアメリカ国内に引っ越してこいというためのビザ」、あるいは、「アメリカの大学を卒業した外国籍エンジニアに、国に帰らずアメリカで働けというビザ」という見方ができます。このコロナ禍で、ソフトウェア業界では、リモートですべてが完結するのでは?という意見が増えてきましたし、実際にGitLab のようなフルリモートで成功する企業もあります。しかし、このH1-Bの応募者数を見ると、まだまだオフィスに来ることの意味を重視している会社が多いのかな、と思います。
ちなみに、FY2021のH-1Bから、USCISはmyUSCISアカウントを使った新しいオンライン登録プロセスを導入しています。以前は、H-1Bの応募書類の提出後に抽選でしたが、FY2021からは、まず最初にオンライン登録者の中から抽選が行われます。雇用主は、この抽選が通ってから登録者のためにH-1B請願書を提出することが可能です。雇用主にとってはかなり負担が軽くなりますね。