“オフィス”の終焉: GitLab における1200人のフルリモート勤務
先日、1200人の全従業員がリモートで勤務していることで有名なGitLab 社が行った、”The End of the Office with Savannah & Sid (GitLab)” というパネルディスカッションを視聴しました(現在は視聴できません)。コロナウィルスの影響で、リモート勤務環境構築に試行錯誤している方も多いと思います。私も含め、そのような方々にとって非常に有益なセッションであったので、以下に要点をまとめました。参考になれば幸いです。
3/19追記: GitLab 社から上記パネルディスカッションの動画がYoutube にアップされました。自動翻訳ですが、日本語字幕も利用できます。
イントロ
- インタビュアー: Savannah Peterson
- インタビュイー: GItLab CEO, Sid Sijbrandij
この対談では、GitLab のCEOであるSid Sijbrandij が、同社従業員のフルリモートワークをどのように実現しているかについて答えている。対談はもともと、SXSW のイベントのひとつとしてSXSW会場で開催される予定であったが、コロナウィルスの影響でSXSW自体がキャンセルとなったため、急遽Zoom によるオンライン対談となった。ある意味で、対談のテーマに沿った提供になったともいえるだろう。
本題に入る前のIce Break だが、インタビュアーのSavannah は、”Bronies” というUSで人気のあるマイリトルポニー というアニメのオタクコミュニティーの一員で、このBronies コミュニティーがGitLab のアーリアダプターだったらしい。大量の動画のアップが負荷になったことと、著作権の問題があったため、現在はGitLabからは締め出されてしまったとのこと。。。
なぜフルリモートのチームを作ろうと思ったのか?
もともとGitLabは、よりよいコラボレーションソフトウェアを作ろうというところから始まった。初期メンバーは、現CTO のDmitriy Zaporozhetsがセルビア、現CEO のSid Sijbrandijがオランダ、もうひとりの開発者の Valery Sizov がウクライナと、最初から分散チームであった。チームは最初はオランダのSid の自宅兼オフィスに通勤していたが、数日すると誰も来なくなってしまった。不安になったが、議論がオンラインで全て完結するのですぐに気にならなくなったという。
2014年にGitLabチームはY Combinator に採択され、カルフォルニア州のMountain View に全員でやってくる。その際に、「やはりセールス、マーケ、ファイナンスのメンバーにはオフィスが無いといけない」と聞き、San Francisco にオフィスを構えた。しかし、今度もみんな来なくなってしまい、ほとんどの机は空いたままだった。Sales の中には通勤に片道2時間かかる者もいたため、リモートでやった方がずっと効率的であるとわかった。以後、リモートワークを推奨している。
2014年の時点で「2020年の11月18日にIPOする」ことを目標として公言している。現在はGitLab の従業員は60カ国に合計1200 人おり、ほぼ全員がリモートワークを行っている。
どのようにしてRemote work を実現しているか
社内で使用しているツールとしては、
- Issue 管理からDevOps まで開発系一通り: (もちろん) GitLab
- コミュニケーション: Slack, Zoom
- 情報共有: Google Docs
過去にはバーチャルロボットのBeamなども使ったが、現在は比較的一般的なツール構成といえる。
Time Zone の違いがあるのでなかなかリアルタイムのコミュニケーションは難しい。また、GitLab 社では、Slack で常にグリーン(オンラインであることを示す)であることや、クイックなレスポンスを返すことを求めてはいない。それはワークスタイルの自由度を阻害する。
いわゆる非同期コミュニケーションが重要である。GitLab では、多くの打ち合わせを録画して後で視聴できるようにしている。また、打ち合わせの際には必ずGoogle Docs でアジェンダを用意して、会議中に質問やコメント、議事録をNote Taker がGoogle Docs に追記し、後で他のメンバーが容易にキャッチアップできるようにしている。情報の透明性を保つのが重要である。
Note Taker の話と関連して、GitLab にはCEO Shadow というユニークなプログラムがある。CEO Shadow というのは、CEOの参加するあらゆる打ち合わせに影のごとく同行して、ミーティングの準備や議事録の作成などを行う。CEO Shadow プログラムは、将来の幹部候補に、会社の全体像を様々な側面から知ってもらうためにある。
その他、リモートワークを実現するためのTIPSは以下の通り
- 快適な机(Standing Desk を推奨)
- ヘッドセット(ハウリングなどおきないように)
- 家族など同居人によく説明する(小さい子供がいる場合など、適切な環境を構築するのは難しいかもしれないが、根気よく説明し、慣れてもらう)
会議体について
Q: 打ち合わせの量はオフィスに集まる一般的な会社と比べて多いか? → GitLabはむしろ少ないのではないか?従業員は 60カ国にまたがり、タイムゾーンが異なるため、ミーティング量は少ない。また、会議室が物理的に足りなくなる一般企業と異なり、Zoom の会議室は無限にふやせてしまうので、打ち合わせは意識してやらないようにしている。実際、GitLab では打ち合わせを”Last Resort” (最終手段) と考えている。
上記のように、打ち合わせ自体は少ないが、GitLabでは以下のようなユニークな会議体が規定されていて、リモートワークにおける欠点を補っている。
- Coffee chat: アジェンダなしで自分の話したい人を指定し、オンラインで雑談する
- Breakout call: 毎日15分程度、小グループに別れて、業務に関係ない話題で雑談する
- Group conversation: 毎週自分の事業領域を説明し、25分間参加者からの様々な質問を受け付ける
さらに年に一度、Group Trip という全従業員参加の合宿がある。この会議では、全員が物理的に一箇所に集まり、部門のことなる他の従業員と会話したり、「燃え尽き症候群を防ぐには?」などのカジュアルなトピックについて小グループに別れて話し合う。参加を強制はしていないが、全従業員の85%が参加する。
よく言われることとして、「イノベーティブなアイディアがインフォーマルな雑談から生まれる」ため、ひとつの場所に集まるべきというものがある。しかし、実際には、そのようなインフォーマルなコミュニケーションは、オフィスに集まる一般の会社でも起こりにくい。従業員は通勤時間に時間と体力を奪われ、フロアや部署が違うとなかなか会話することもないのが実態だ。むしろリモート環境で仕事をしている方が時間の余裕があるので、Coffee Chat などのプログラムを通して、部門の壁を超えたインフォーマルコミュニケーションがしやすいのではないかと考えている。
リモートワークの評価方法
GitLab では、全員がひとりの上司を持っていて、クロスファンクショナルチームは無い。プロセスや作業時間は全く考慮せず、徹底的にアウトプットドリブンで評価する。
例えば、開発におけるストーリーポイント、ブラインドポーカー、ベロシティなどのメトリクスは全て無視している。重視しているのは、いかにリリースのサイクルタイムを減らせるか。どれだけ高頻度で、新しい機能をShipしたかである。多くのソフトウェア開発メトリクスは、ゲーミング(注: もともとの目的ではなく、対象となっている指標のみを最適化するためだけに注力してしまうこと)するとよくないことが起こる。
しかし例えば、GitLab で採用しているマージリクエスト・レートという評価指標は、むしろゲーミングしてくれた方が良い効果が出る。この指標を高くしようとすると、できるだけ、タスクを小さくし、新しい機能のリリースの頻度を高めることになる。これにより、技術的なリスクを軽減し、いち早くユーザーフィードバックをえることができる。
GitLabでの従業員の働き方について
とにかく通勤時間をなくすことで、働き方にFlexibility が生まれる。GitLab では、従業員のための、”GitLab Team Handbook”を作成している。GitLab の投資家の中には、リモートワークに納得できない方もいたが、彼らもいまやこのHandbook を自分の他の出資会社に勧めているほどになっている。
GitLab には、毎月全世界から応募が10,000 件来る。また、年次(year-over-year)のリテンションレート(離職率の反対) は93%である。今後のビックチャレンジは”Diversity (多様性)” である。特にジェンダーの多様性には注力していきたい。